ツォルンの補題を使って線形空間に基底が存在することを示す

2020/06/08

今日の目標

$\cbr{0}$ でない線形空間の基底の存在を示す。

この記事で使う記号や用語
  • $\NN_+$ を正整数全体の集合とする。


mizuha
前回は無限個のベクトルの線形独立性や
無限個のベクトルからなる基底について考えたけど
mizuha
今日は
$\cbr{0}$ でない線形空間はどれも
基底を持つってことを示すよ
定理(基底の存在定理)

選択公理を仮定するとき、$\cbr{ 0}$ でない線形空間には必ず基底が存在する。

前回の復習

定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $S$ が $K$ 上線形独立であるとは、

各 $n \in \NN_+$ および相異なる $ v_1, \ldots, v_n \in S$ と $c_1, \ldots, c_n \in K$ に対して

「$c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n = 0$ ならば $c_1 = \cdots = c_n = 0$」

が成り立つ

ことをいう。 $V$ 上線形独立でないとき、$K$ 上線形従属であるという。

kureha
$S = \varnothing$ は常に線形独立なんだよね
mizuha
あと $S = \cbr{0}$ は常に線形従属
kureha
$c_1 \neq 0$ でも $c_1 0 = 0$ だもんね
定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $S$ に対し、$V$ の部分集合 $\span S$ を $$\span S = \iset{c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n}{\begin{align}&n \in \NN_+\\&v_1, \ldots, v_n \in S\\&c_1, \ldots, c_n \in K\end{align}}$$ で定める。

mizuha
ちなみに $\span \varnothing = \varnothing$
定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $B$ が $V$ の基底であるとは、

線形独立性

$B$ は $V$ 上線形独立

全域性

$V = \span B$

を満たすことをいう。

線形従属にしてしまうベクトル

mizuha
ひとつ命題を証明しとこう
mizuha
線形独立な集合に何か加えて線形従属になったなら
その足したベクトルは span に入ってるはず
命題

$K$-線形空間 $V$ において、$S \subseteq V$ と $v \in V$ に対し

「$S \neq \varnothing$」かつ「$S$ が線形独立」かつ「$S \cup \cbr{ v}$ が線形従属」

であれば、 $v \in \span S$ である。

kureha
なんで $S \neq \varnothing$ がいるの?
mizuha
$S = \varnothing$ で $v = 0$ としたら
$\varnothing$ が線形独立で $\varnothing \cup \cbr{ 0}$ が線形従属なのに
$ 0 \not\in \span \varnothing$
証明

$S \cup \cbr{ v}$ が線形従属なので、相異なる ${v}_1, \ldots, {v}_n \in S \cup \cbr{ v}$ および $c_1, \ldots, c_n \in K$ で $$c_1 {v}_1 + \cdots + c_n {v}_n = 0$$ かつ $(c_1, \ldots, c_n) \neq (0, \ldots, 0)$ となるものが存在する。ここで $S$ の独立性より $v$ は $v_1, \ldots, v_n$ のどれかと等しい。$v_n = v$ として一般性を失わない。

$n = 1$ の場合

$c_1 v = 0$ かつ $c_1 \neq 0$ となるので、$v = 0$ である。いま $S \neq \varnothing$ なので $$ 0 \in \span S$$ であり、$v \in \span S$ を得る。

$n \geq 2$ の場合

$v_1, \ldots, v_{n-1} \in S$ と $(c_1, \ldots, c_n) \neq (0, \ldots, 0)$ により $$c_1 {v}_1 + \cdots + c_{n-1} {v}_{n-1} + c_n v = 0$$ となるが、$S$ は線形独立なので $c_n = 0$ とはならない。よって $${v} = \pbr{-\frac{c_1}{c_n}}{v_1} + \cdots + \pbr{- \frac{c_{n-1}}{c_n}}{v_{n-1}} $$ となり $v \in \span S$ を得る。

基底の存在定理

mizuha
今日の本題
基底の存在を示すよ
定理(基底の存在定理)

選択公理を仮定するとき、$\cbr{ 0}$ でない線形空間には必ず基底が存在する。

mizuha
線形独立な集合で $V$ を張らなきゃいけないから
なるべくでかい線形独立な集合を取りたい
mizuha
$V$ の部分集合で線形独立なもの全体を考えて
そこに包含関係で順序を付けて
極大なものを取ってこよう
kureha
ってことはツォルンの補題使うのか
定理(ツォルンの補題)

選択公理を仮定する。このとき $X$ の任意の鎖が上界を持つならば $X$ は極大元を持つ。

基底の存在定理の証明

$\cbr{ 0}$ でない線形空間 $V$ に対し、

$\mathcal{A}$ を $V$ の部分集合で線形独立なもの全体の集合

とする。 $\mathcal{A}$ 上の包含関係 $\subseteq$ は半順序であり、これに対しツォルンの補題を用いることを考える。

主張1

$\mathcal{A}$ の任意の鎖は上界を持つ。

$\mathcal{A}$ の鎖 $\mathcal{C} \subseteq \mathcal{A}$ を任意に取り $$\displaystyle\tilde{S} = \bigcup_{S \in \mathcal{C}} S$$ とする。$\tilde{S}$ が $\mathcal{C}$ の上界であることを示したい。いま、

各 $S \in \mathcal{C}$ に対し $S \subseteq \tilde{S}$

なので、$\tilde{S} \in \mathcal{A}$ であることを示せばよい。

$\tilde{S}$ の線形独立性

相異なる ${v}_1, \ldots, {v}_n \in \tilde{S}$ および $c_1, \ldots, c_n \in K$ に対し $$c_1 {v}_1 + \cdots + c_n {v}_n = 0$$ であるとする。このとき各 ${v}_i \in \tilde{S}$ に対し $${v}_1 \in S_1, \ldots, {v}_n \in S_n$$ となる $S_1, \ldots, S_n \in \mathcal{C}$ が取れるが、$\mathcal{C}$ は鎖なので $S_1, \ldots, S_n$ をすべて包含する $S_k \in \mathcal{C}$ が存在し、このとき $${v}_1, \ldots, {v}_n \in S_k$$ となる。$S_k$ は線形独立なので $c_1 = \cdots = c_n = 0$ である。

主張1とツォルンの補題により、$\mathcal{A}$ の極大元 $B$ が存在する。

主張2

$B \neq \varnothing$ である。

$\mathcal{A}$ が空でない集合を持つこと

$V$ は $\cbr{ 0}$ でないので ${v} \in V \setminus \cbr{ 0}$ が取れる。$S = \cbr{{v}}$ とする。ある $c \in K$ によって $c{v} = 0$ となると、${v} \neq 0$ なので $c = 0$ である。よって $S$ は線形独立であり $S \in \mathcal{A}$ である。

$\varnothing$ は $S$ の真部分集合なので、$\mathcal{A}$ の極大元 $B$ は空集合にはなりえない。

$B$ が $V$ の基底であることを示す。$B \in \mathcal{A}$ なので $B$ は線形独立である。

$V = \span B$ であること

${v} \in V$ として $v \in \span B$ を示す。 ${v} \in B$ のときは自明。

${v} \not\in B$ のとき $B’ = B \cup \cbr{{v}}$ とすると $B$ の極大性より $$B’ \not\in \mathcal{A}$$ であり $B’$ は線形従属である。いま $B$ は線形独立で、更に主張2より $B \neq \varnothing$ なので、命題より $v \in \span B$ である。

kureha
主張1では $V \neq \cbr{ 0}$ の仮定使ってないけど
$V = \cbr{ 0}$ のとき主張1って成り立つの?
mizuha
うん
$V = \cbr{ 0}$ の部分集合は $\varnothing$ か $\cbr{ 0}$ だけど
線形独立なのは $\varnothing$ だけだから
$\mathcal{A} = \cbr{\varnothing}$ でしょ
mizuha
$\mathcal{A}$ の部分集合は $\varnothing$ と $\cbr{\varnothing}$ だけど
これはどちらも鎖になってる
mizuha
「$S \in \mathcal{A}$ が鎖 $\mathcal{C}$ の上界」とは
「任意の $T \in \mathcal{C}$ に対し $T \subseteq S$ 」
mizuha
$\mathcal{C} = \varnothing$ のときは $\varnothing \in \mathcal{A}$ が上界だし
$\mathcal{C} = \cbr{\varnothing}$ のときも $\varnothing \in \mathcal{A}$ が上界
mizuha
どの鎖も上限を持ってる
kureha
まあ 確かに……
mizuha
そして $\mathcal{A} = \cbr{\varnothing}$ の極大元は $B = \varnothing$
mizuha
でも $\span B = \varnothing$ で
$V$ を張れないから
この $B$ は基底になれない
mizuha
どんな $V$ でも $\mathcal{A}$ は極大元を持つけど
その極大元が $\varnothing$ になるような状況を取り除くために
$V \neq \cbr{0}$ がいるんだね
kureha
まあ 何はともあれ
kureha
前回考えた $\RR^\NN$ にも
基底があるってことはわかった