無限集合からなる基底を持つ線形空間

2020/09/23

今日の目標

無限集合からなる基底を持つ線形空間について考える。

この記事で使う記号や用語
  • $\NN$ を非負整数全体の集合とする。
  • $\NN_+$ を正整数全体の集合とする。


kureha
線形代数の授業で扱う線形空間って
「有限次元」を仮定してやってたけどさ
kureha
その仮定取ったらどうなんの?
mizuha
ようこそ関数解析学の世界へ
mizuha
有限次元じゃない線形空間がどんなものか
少し見てみよっか

線形空間の復習

定義

体 $K$ に対し可換群 $V$ が $K$-線形空間($K$-ベクトル空間)であるとは、 $V$ が演算 \begin{align*} & \cdot{}: K \times V \rightarrow V && (c, v) \mapsto c \cdot v = c v \end{align*} を備えていて、

分配律

各 $c,d \in K$ と各 $v, w \in V$ に対して $$c(v + w)= c v + c w$$ $$(c + d) v= c v + d v$$

結合律

各 $c,d \in K$ と各 $v \in V$ に対して $$(c d) v= c (d v)$$

単位スカラー乗算

$K$ の乗法単位元 $1$ に対し、各 $ v \in V$ に対して $$1 v = v$$

をみたすことをいう。$V$ の要素をベクトルと呼ぶ。

定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $W$ が $V$ の演算で閉じている、すなわち

加法で閉じる

各 $v, w \in W$ に対し $v + w \in W$

スカラー乗算で
閉じる

各 $c \in K$ と各 $v \in W$ に対し $cv \in W$

を満たすとき、$W$ を $V$ の部分線形空間あるいは単に部分空間と呼ぶ。このとき $W$ は $V$ の演算により線形空間である。

一般のベクトル集合に対する線形独立と線形従属の定義

mizuha
線形代数学の授業だと
「線形独立」・「線形従属」を
正整数個のベクトル $v_1, \ldots, v_n$ に対して
定義することが多いと思うけど
mizuha
今日はもっと一般のベクトルの集合に対して
「線形独立」・「線形従属」を定義しよう
定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $S$ が $K$ 上線形独立であるとは、

各 $n \in \NN_+$ および相異なる $ v_1, \ldots, v_n \in S$ と $c_1, \ldots, c_n \in K$ に対して

「$c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n = 0$ ならば $c_1 = \cdots = c_n = 0$」

が成り立つ

ことをいう。 $V$ 上線形独立でないとき、$K$ 上線形従属であるという。

kureha
$S$ がたとえ無限集合でも
$S$ からどの有限個の
ベクトル取っても線形独立になるなら
線形独立って呼ぼうってことね
mizuha
$v_1, \ldots, v_n \in S$ は
「相異なる」ものを取ってることに注意
mizuha
$1v_1 + (-1) v_1 = 0$ だから
「相異なる」の条件外すと
空集合以外なんでも線形従属になっちゃって
変なことになる
kureha

$S$ が空集合のときも定義されてるんだ
kureha
この定義だと $\varnothing$ は常に線形独立だね

一般のベクトル集合に対する基底の定義

定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $S$ に対し、$V$ の部分集合 $\span S$ を $$\span S = \iset{c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n}{\begin{align}&n \in \NN_+\\&v_1, \ldots, v_n \in S\\&c_1, \ldots, c_n \in K\end{align}}$$ で定める。

kureha
なに? これ
mizuha
$S$ の有限個のベクトルで作れる線形結合全体
mizuha
実はこれは
$S$ のベクトルを全部持つような部分空間の中で
一番小さいものになる
命題

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $S$ に対し、$\span S$ は

$V$ の部分空間のうち $S$ を包含する最小のもの

である。

証明

$\span S$ が $S$ を包含する部分空間であること

$v \in S$ に対し $v = 1v \in \span S$ なので、$\span S$ は $S$ を包含する。

$\span S$ が加法で閉じていることは自明。

$\span S$ がスカラー乗算で閉じていることは、 $c \in K$ および $\span S$ の要素 $c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n$ に対し $$c(c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n) = (c c_1)v_1 + \cdots + (c c_n) v_n$$ が $\span S$ に属すことからわかる。

$S$ を包含する部分空間はどれも $\span S$ を包含すること

$V$ の部分空間 $W$ が $S$ を包含するとする。このとき $\span S$ の要素 $$c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n$$ を任意に取ると、$S \subseteq W$ なので $v_1, \ldots, v_n \in W$ であり、 $W$ は $V$ の演算で閉じるので $c_1 v_1 + \cdots + c_n v_n \in W$ となる。よって $\span S \subseteq W$ を得る。

定義

$K$-線形空間 $V$ の部分集合 $B$ が $V$ の基底であるとは、

線形独立性

$B$ は $V$ 上線形独立

全域性

$V = \span B$

を満たすことをいう。

mizuha
線形独立で しかも
それらをすべて含む部分空間が $V$ しかないものを
$V$ の基底と呼ぶってことだね

無限集合からなる基底を持つ線形空間の例

kureha
無限集合からなる基底を持つ線形空間って
具体的にはどんなのがあるの?
mizuha
じゃあ探してみよっか
kureha
(すぐ教えてくれるわけじゃないのね……)
mizuha
線形空間ってまず何が思い浮かぶ?
kureha
数ベクトル空間 $\RR^n$ かな……
でも $\RR^n$ の基底は有限集合だよね
mizuha
じゃあ $\RR^n$ を無限っぽく拡張しよう
kureha
えっと
$\RR^n$ は $n$-タプル $(a_1, \ldots, a_n)$ の集まりだけど
これを無限っぽく拡張すると……
kureha
無限個の実数を並べた
$(a_1, \ldots, a_n, \ldots)$ みたいな……
kureha
いや実数列 $\cbr{a_n}_{n \in \NN}$ の集まりを考えればいいのか
mizuha
実数列全体の集合は $\RR^\NN$ って書かれたりするね
kureha
$\RR^\NN$ は $\RR$-線形空間になるよね
mizuha
うん じゃあその基底になりそうものって?
kureha
$\RR^n$ のときは
$\cbr{(1, 0, \ldots, 0), (0, 1, \ldots, 0), \ldots, (0, \ldots, 0, 1)}$
っていうわかりやすい基底があったから
それと似たような感じで……
kureha
$i$ 番目が $1$ でそれ以外は $0$ の数列 $$0, \ldots, 0, 1, 0, 0, \ldots$$ を $b^{(i)}$ として
$B = \iset{b^{(i)}}{i \in \NN}$ としたら
$B$ が $\RR^\NN$ の基底になったりしないかな
mizuha
線形独立性は問題なさそうだね
kureha

でも $\RR^\NN = \span B$ にはならないか
kureha
全部 $1$ の数列 $1, 1, 1, \ldots$ は
$B$ の有限個の線形和で書けないもんね
mizuha
うん
でもそれで一つ例が作れるね
kureha
え?
mizuha
$\RR^\NN \neq \span B$ だったとしても
$\span B$ それ自体は一つの線形空間で
mizuha
$B$ が線形独立でありさえすれば
$B$ が $\span B$ の基底になる
kureha
あー確かにね なるほど
命題

$K$-線形空間 $V$ の線形独立な部分集合 $B$ は線形空間 $\span B$ の基底である。

mizuha
じゃあ今の例だと $\span B$ って何?
kureha
$1$ が一回出てくる以外 $0$ ばっかりの数列を
有限個取って線形和で表せる数列……
kureha
途中からずっと $0$ になるような数列なら
$B$ の有限個の元の線形和で書けるね
mizuha
おっけー まとめよう
mizuha
べつに $\RR$ じゃなくてもいいから $K$ にしとくね

体 $K$ に対し $K$-値数列全体を $K^\NN$ と書く。このとき

加法

$a, b \in K^\NN$ に対し $a + b \in K^\NN$ を $$(a + b)_n = a_n + b_n$$ で定める

零元

零元 $\boldsymbol{0} \in K^\NN$ を $$\boldsymbol{0}_n = 0$$ で定める

逆元

$a \in K^\NN$ に対し逆元 $-a \in K^\NN$ を $$(-a)_n = -a_n$$ で定める

により $K^\NN$ は可換群になり、更に

スカラー乗算

$c \in K$ と $a \in K^\NN$ に対し $ca \in K^\NN$ を $$(ca)_n = ca_n$$ で定める

により $K^\NN$ は $K$-線形空間になる。

$K$-線形空間 $K^\NN$ の部分集合 $c_{00}(K)$

有限個の $n$ を除いて $a_n = 0$ となる $a \in K^\NN$ 全体

により定めると、$c_{00}(K)$ は $K^\NN$ の部分空間になる。

各 $i \in \NN$ に対して $b^{(i)} \in c_{00}$ を $$b^{(i)}_n = \begin{cases} 1 & (n = i) \\ 0 & (n \neq i) \end{cases}$$ で定める。このとき $c_{00}$ の部分集合 $B = \iset{b^{(i)}}{i \in \NN}$ は $c_{00}$ の基底である。

証明

$B$ の線形独立性を示せばよい。

相異なる $b^{(i_1)}, \ldots, b^{(i_k)} \in B$ と $c_1, \ldots, c_k \in K$ に対し $$c_1 b^{(i_1)} + \cdots + c_k b^{(i_k)} = \boldsymbol{0}$$ とすると、各 $\ell \in \cbr{1, \ldots, k}$ に対し \begin{align} &(c_1 b^{(i_1)} + \cdots + c_k b^{(i_k)})_{i_\ell} \\&\qquad= c_1 0 + \cdots + c_{\ell-1} 0 + c_\ell 1 + c_{\ell+1} 0 + \cdots + c_{k} 0 \\&\qquad= c_\ell \end{align} が $\boldsymbol{0}_{i_\ell}=0$ なので、$c_1 = \cdots = c_k = 0$ である。

mizuha
$c_{00}(K)$ の数列は
非零となる項は有限個
mizuha
でも有限個なら何個でもいい
mizuha
これに似たようなものを
どこかで見たことが無い?
kureha
mizuha
多項式も
項の数が有限個なら
何個でもいいでしょ

体 $K$ 上の一変数多項式全体の集合 $K[X]$ を $K$-線形空間として見ると $$B = \iset{X^n}{ n \in \NN} = \cbr{1, X, X^2, \ldots}$$ がその基底になる。

証明
線形独立性

$B$ の相異なる有限個のベクトル $X^{n_1}, \ldots, X^{n_k}$ と $c_1, \ldots, c_k \in K$ に対し $$c_1 X^{n_1} + \cdots + c_k X^{n_k} = 0$$ とすると、多項式の係数比較により $c_1 = \cdots = c_k = 0$ である。

全域性

$K[X]$ の任意の要素 $P$ は $k \in \NN$ と $c_1, \ldots, c_k \in K$ によって $$P = c_0 + c_1 X + \cdots + c_k X^k$$ の形で表されるので $P \in \span K$ である。よって $K[X] = \span K$ である。

mizuha
あるいは
同型写像 $f: c_{00}(K) \rightarrow K[X]$ を作って
$B$ が $c_{00}(K)$ の基底だから
$f(B)$ は $K[X]$ の基底
っていうアプローチで示してもいいかも

$K^\NN$ の基底は?

kureha
$c_{00}(K)$ の基底は見つかったけど
kureha
$K^\NN$ には基底はないの?
mizuha
実は $\cbr{0}$ じゃない線形空間は
必ず基底を持つってことを証明できる
kureha
あるんだ
mizuha
選択公理仮定するけどね
mizuha
じゃあ次回はそれを証明しよっか