ヴィタリ集合|ルベーグ測度でも測れない集合

2020/06/10

今日の目標

選択公理を使ってルベーグ非可測集合の存在を示す。

この記事で使う記号や用語
  • $\NN$ は $0$ 以上の整数全体の集合とする。
  • $\mu$ は $\RR$ 上のルベーグ測度とする。
  • $A \subseteq \RR$ と $x \in \RR$ に対し $A + x = \iset{a + x}{a \in A}$ とする。
  • 集合族 $\cbr{A_\lambda}_{\lambda \in \Lambda}$ が互いに素であるとは、$\lambda \neq \eta$ なる任意の $\lambda, \eta \in \Lambda$ に対し $A_{\lambda} \cap A_{\eta} = \varnothing$ であることをいう。

ルベーグ非可測集合が存在することの証明

ヴィタリの定理(1905)

選択公理を仮定したとき、ルベーグ可測でない集合 $A \subseteq \RR$ が存在する。

mizuha
集合 $A$ がどんな条件を満たせば
「$A$ はルベーグ非可測だ」と言えるのか考えてみよう
kureha
「$A$ が 〇〇 ならば $A$ はルベーグ非可測」の
〇〇 を探そうってこと?
mizuha
対偶取ると 「$A$ がルベーグ可測ならば $A$ は 〇〇 でない」
mizuha
$A$ がルベーグ可測のときに
どんなことが成り立つのかというと……
補題1

$\mu$-可測な集合 $A \subseteq \RR$ に対し実数列 $\cbr{ x_n }_{n \in \NN}$ が条件

集合列 $\cbr{A + x_n}_{n \in \NN}$ は互いに素である

を満たすならば $$\displaystyle\mu\pbr{\bigcup_{n \in \NN} (A + x_n)} \in \cbr{0, \infty}$$ である。

補題1の証明

可算加法性と平行移動不変性より \begin{align*} \mu \pbr{\bigcup_{n \in \NN} (A + x_n)} &= \sum_{n \in \NN} \mu(A + x_n) \\&= \sum_{n \in \NN} \mu(A) \\&= \begin{cases} 0 & (\mu(A) = 0) \\ \infty & (\mu(A) > 0) \end{cases} \end{align*}

mizuha
ルベーグ可測な集合を
交わらないように可算無限個平行移動させたら
それらの和集合の測度は $0$ か $\infty$ になる
kureha
つまりその測度が
$0$ にも $\infty$ にもなるはずがない
っていう集合はルベーグ非可測
補題2

集合 $A \subseteq \RR$ と実数列 $\cbr{ x_n }_{n \in \NN}$ が条件

  1. 集合列 $\cbr{A + x_n}_{n \in \NN}$ は互いに素である
  2. $0 \lt \mu(B) \leq \mu(C) \lt \infty$ なる $\mu$-可測集合 $B, C$ で $$B \subseteq \bigcup_{n \in \NN} (A + x_n) \subseteq C$$ となるものが存在する

をどちらも満たすとき、$A$ は $\mu$-可測ではない。

補題2の証明

$A$ が $\mu$-可測であると仮定すると、補題1と条件 1. より $$\mu\pbr{\bigcup_{n \in \NN} (A + x_n)} \in \cbr{0, \infty}$$ であるが、一方条件 2. より $$0 \lt \mu\pbr{\bigcup_{n \in \NN} (A + x_n)} \lt \infty$$ であるので、矛盾する。

kureha
この条件を満たす $A, \cbr{x_n}_{n \in \NN}, B, C$ を
見つけたらゴールだね
mizuha
$B, C$ を有界な区間だと想定すると……
kureha
$\cbr{x_n}_{n \in \NN}$ も有界
mizuha
平行移動たちの和集合で
区間を埋め尽くすことを考えると
kureha
$\iset{x_n}{n \in \NN} = \QQ \cap [a, b]$ の形が良さそう?
mizuha
有理数による平行移動たち $\cbr{A + x_n}_{n \in \NN}$ を
互いに素にしなきゃいけない……
mizuha
$\RR / \QQ$ の各要素から代表元1つずつ取って
$A$ を作れば何とかなるかな?
定理

選択公理を仮定したとき、ルベーグ可測でない集合 $A \subseteq \RR$ が存在する。

定理の証明

各 $\lambda \in \RR/\QQ$ に対し $\lambda \cap [0,1] \neq \varnothing$ であるので、選択公理より

任意の $\lambda \in \RR/\QQ$ に対し $a_\lambda \in \lambda \cap [0,1]$

となる実数の族 $\cbr{a_\lambda}_{\lambda\in\RR/\QQ}$ が存在する。

$A = \iset{a_\lambda}{\lambda \in \RR/\QQ}$ とする。

主張1

相異なる2つの有理数 $q, r$ に対し $A + q$ と $A + r$ は互いに素である。

もし $A + q$ と $A + r$ が共通の要素を持つと、 $$a_{\lambda} + q = a_{\eta} + r$$ となる $\lambda, \eta \in \RR / \QQ$ が存在する。 $a_{\lambda} + q \in \lambda$ と $a_{\eta} + r \in \eta$ から $\lambda \cap \eta \neq \varnothing$ がわかる。共通の要素を持つ同値類は一致するので $\lambda = \eta$ となり、したがって $q = r$ を得る。

主張2

$\displaystyle[0,1] \subseteq \bigcup_{q \in \QQ \cap [-1,1]} (A + q)\subseteq [-1, 2]$ が成り立つ。

左側の $\subseteq$

$x \in [0,1]$ を任意に取ると、 $a_{x + \QQ} \in x + \QQ$ なので $a_{x + \QQ} + q = x$ となる $q \in \QQ$ が存在し、 従って $x \in A + q$ を得る。

また $q = x \minus a_{x + \QQ}$ であるが $x, a_{x + \QQ} \in [0,1]$ より $q \in [-1,1]$ である。

右側の $\subseteq$

$A \subseteq [0, 1]$ なので各 $q \in \QQ \cap [-1,1]$ に対し $A + q \subseteq [-1,2]$ である。

実数列 $\cbr{x_n}_{n \in \NN}$ を $$\iset{x_n}{n \in \NN} = \QQ \cap [-1,1]$$ となるように取る。ただし $n \neq m$ ならば $x_n \neq x_m$ とする。

主張1より

$\cbr{A + x_n}_{n \in \NN}$ は互いに素

であり、主張2より $$[0,1] \subseteq \bigcup_{n \in \NN}\pbr{A + x_n} \subseteq [-1,2]$$ であるので、補題2より $A$ は $\mu$-可測ではない。

ヴィタリ集合とルベーグ積分できない関数

kureha
トマエ関数は $[0,1]$ 区間で
リーマン積分可能
kureha
ディレクレ関数($\QQ$ の指示関数)は $[0,1]$ 区間で
リーマン積分不可能だけどルベーグ積分可能
kureha
で今回 $[0,1]$ の部分集合で
ルベーグ非可測な集合の存在が分かって……
mizuha
その集合ってヴィタリ集合って呼ばれてるけど
mizuha
ヴィタリ集合の指示関数がルベーグ可測じゃないから
kureha
ヴィタリ集合の指示関数は
$[0,1]$ 区間でルベーグ積分不可能
mizuha
うん
mizuha
「広義リーマン積分可能だけど
ルベーグ積分できない例」としてよく
$$ \int_{0}^{\infty} \frac{\sin x}{x} dx $$
mizuha
が挙げられたりするけど
$$ \int_{\varepsilon}^{N} \frac{\sin x}{x} dx $$
mizuha
ならルベーグ可積分だから
kureha
その極限取ればいいじゃんってなる
mizuha
そうそう
mizuha
「広義リーマン積分可能だけど
ルベーグ積分できない例」としては
面白いんだけど
mizuha
単純に「ルベーグ積分できない例」
として挙げるには
kureha
ちょっとインパクトが足りない?
mizuha
「ルベーグ積分できない例」としては
ヴィタリ集合の指示関数の方がグサッとくる
mizuha
気がする
mizuha
文脈にもよるのかな
kureha
ふむふむ
mizuha
(でも今回選択公理で
非可算無限個の非空集合たちから
1つずつ選んだけど)
mizuha
(選択公理を少し弱めたら
どんな集合もルベーグ可測になるような公理系に
なったりしないかな……?)