転置行列と対称行列の演習問題 18 問(解答付き)|線形代数学
転置行列・対称行列に関する演習問題で証明を書けるようになる。
- 単位行列を $I$ と書く。
以下、体 $K$ 上の行列を考える。
※「体」をご存じでない方は $K$ を $\RR$ や $\CC$ に置き換えてご覧ください。
定義の確認
$(m,n)$ 行列 $A =(a_{i,j})_{i,j}$ の転置行列とは、
$(i,j)$ 成分が $a_{j,i}$ である $(n,m)$ 行列
のことをいい、$A^\top$と書く。行列 $\pbr{ \begin{matrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \end{matrix}} $ の転置行列は $ \pbr{ \begin{matrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \end{matrix}}^\top = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 4 \\ 2 & 5 \\ 3 & 6 \end{matrix}} $
正方行列 $A$ が対称行列であるとは、$A$ が転置の操作により不変であること、すなわち $$A^\top = A$$ が成り立つことを言う。
行列 $\pbr{ \begin{matrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 4 & 5 \\ 3 & 5 & 6 \\ \end{matrix}} $ は対称行列。
演習問題
$(m,n)$ 行列 $A, B$ に対し $$(A+B)^\top = A^\top + B^\top$$ であることを示せ。
各 $i,j$ に対し \begin{align} \pbr{\text{$(A+B)^\top$ の $(i,j)$ 成分}} &= \pbr{\text{$A+B$ の $(j,i)$ 成分} } \\&= \pbr{\text{$A$ の $(j,i)$ 成分} } + \pbr{\text{$B$ の $(j,i)$ 成分} } \end{align} である一方、 \begin{align} \pbr{\text{$A^\top + B^\top$ の $(i,j)$ 成分}} &= \pbr{\text{$A^\top$ の $(i,j)$ 成分} } + \pbr{\text{$B^\top$ の $(i,j)$ 成分} } \\&= \pbr{\text{$A$ の $(j,i)$ 成分} } + \pbr{\text{$B$ の $(j,i)$ 成分} } \end{align} であるので、 $(A+B)^\top$ と $A^\top + B^\top$ は等しい。
行列 $A$ と $c \in K$ に対し $$(cA)^\top = cA^\top$$ であることを示せ。
各 $i,j$ に対し \begin{align} \pbr{\text{$(cA)^\top$ の $(i,j)$ 成分}} &= \pbr{\text{$cA$ の $(j,i)$ 成分} } \\&= c \cdot \pbr{\text{$A$ の $(j,i)$ 成分} } \end{align} である一方 \begin{align} \pbr{\text{$cA^\top$ の $(i,j)$ 成分} } &= c \cdot \pbr{\text{$A^\top$ の $(i,j)$ 成分} } \\&= c \cdot \pbr{\text{$A$ の $(j,i)$ 成分} } \end{align} であるので、$(cA)^\top$ と $cA^\top$ は等しい。
$(m,n)$ 行列 $A$ と $(n,\ell)$ 行列 $B$ に対し $$(AB)^\top = B^\top A^\top$$ であることを示せ。
行列 $A, B, A^\top, B^\top$ の各成分を \begin{align} &A = (a_{i,j})_{i,j} && B = (b_{i,j})_{i,j} &&A^\top = (c_{i,j})_{i,j} && B^\top = (d_{i,j})_{i,j} \end{align} と書くことにする。 転置行列の定義より $c_{j,i} = a_{i,j}$ および $d_{i,j} = b_{j,i}$ である。
このとき各 $i,j$ に対し \begin{align} \pbr{\text{$(AB)^\top$ の $(i,j)$ 成分}} &= \pbr{\text{$AB$ の $(j,i)$ 成分}} \\&= \sum_{k = 1}^n a_{j,k}b_{k,i} \end{align} である一方 \begin{align} \pbr{\text{$B^\top A^\top$ の $(i,j)$ 成分}} &= \sum_{k = 1}^n d_{i,k}c_{k,j} \\&= \sum_{k = 1}^n b_{k,i}a_{j,k} \\&= \sum_{k = 1}^n a_{j,k}b_{k,i} \end{align} であるので $(AB)^\top$ と $B^\top A^\top$ は等しい。
正方行列 $A$ と正整数 $N$ に対し $(A^N)^\top = (A^\top)^N$ であることを示せ。
$N$ についての数学的帰納法で示す。$N = 1$ のときは自明。$(A^N)^\top = (A^\top)^N$ を仮定すると \begin{align} (A^{N+1})^\top &= (A^N A)^\top \\&= A^\top (A^N)^\top \\&= A^\top (A^\top)^N \\&= (A^\top)^{N+1} \end{align}
行列 $A$ に対し $(A^\top)^\top = A$ であることを示せ。
各 $i,j$ に対し \begin{align} \pbr{\text{$(A^\top)^\top$ の $(i,j)$ 成分}} &= \pbr{\text{$A^\top$ の $(j,i)$ 成分} } \\&= \pbr{\text{$A$ の $(i,j)$ 成分} } \end{align} であるので、 $(A^\top)^\top$ と $A$ は等しい。
「$A = B$ と $A^\top = B^\top$ は同値」
ってことがすぐわかるね
$(m,n)$ 行列 $A$ と $(n,\ell)$ 行列 $B$ に対し $$(AB)^\top = A^\top B^\top$$ は一般に成り立つか?
一般には成り立たない。実際 \begin{align} & A = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } && B = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \end{align} とすると $$ (AB)^\top = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} }^\top = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{matrix} } $$ となるが、 $$ A^\top B^\top = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } $$ であるので一致しない。
$n$ 次正方行列 $A, B$ に対し、
$A$ も $B$ も対称行列ならば $A+B$ も対称行列
であることを示せ。$A+B$ を転置すると $$(A + B)^\top = A^\top + B^\top = A + B$$ なので $A + B$ は対称行列である。
正方行列 $A$ と $c \in K$ に対し
$A$ が対称行列ならば $cA$ も対称行列
であることを示せ。$cA$ を転置すると $$(cA)^\top = cA^\top = cA$$ なので $cA$ は対称行列である。
$n$ 次正方行列 $A, B$ に対し、
$A$ も $B$ も対称行列ならば $AB$ も対称行列
は一般に成り立つか?一般には成り立たない。実際 \begin{align} & A = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{matrix} } && B = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \end{align} はどちらも対称行列であるが、 $$AB = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{matrix} } \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{matrix} } $$ であり、これは対称行列でない。
正方行列 $A$ と正整数 $N$ に対し、
$A$ が対称行列ならば $A^N$ も対称行列
であることを示せ。$A^N$ を転置すると $$(A^N)^\top = (A^\top)^N = A^N$$ となるので $A^N$ は対称行列。
$K$-係数1変数多項式 $P(X) \in K[X]$ に対し
「$A$ が対称行列ならば $P(A)$ も対称行列」
が成り立つ
正方行列 $A$ と正整数 $N$ に対し、
$A^N$ が対称行列ならば $A$ も対称行列
は一般に成り立つか?一般には成り立たない。実際 $N = 2$ および $A = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} }$ とすると、 $$A^2 = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} }\pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } $$ となり、$A^2$ は対称行列であるが $A$ は対称行列ではない。
$A^N$ も非対称とは限らないってことね
「$A$ が非対称かつ $A^2$ が対称」を同値変形すると
「$b \neq c$ かつ $a + d = 0$」になるから
ここから適当に反例作ればいいね
$n$ 次正方行列 $A, B$ に対し、
$A$ も $B$ も対称行列ならば $AB = BA$
は一般に成り立つか?一般には成り立たない。実際 \begin{align} & A = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{matrix} } && B = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \end{align} はどちらも対称行列であるが、 \begin{align} AB &= \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{matrix} } \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{matrix} } \end{align} \begin{align} BA &= \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \end{align} であり、一致しない。
$n$ 次正方行列 $A, B$ に対し、
$A$ も $B$ も対称行列ならば $(AB)^\top = BA$
であることを示せ。$A^\top = A$ と $B^\top = B$ より $(AB)^\top = B^\top A^\top = BA$ である。
$(m,n)$ 行列 $A$ と $(n,m)$ 行列 $B$ に対し、
$AB$ が対称行列ならば $BA$ も対称行列
は一般に成り立つか?一般には成り立たない。実際 \begin{align} & A = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } && B = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \end{align} とすると $$AB = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } $$ であるので $AB$ は対称行列であるが、 $$BA = \pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix} } \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix} } $$ であるので $BA$ は対称行列でない。
$n$ 次正方行列 $A, B$ に対し、
$A + B$ も $AB$ も $BA$ も対称行列ならば $A^2 + B^2$ も対称行列
であることを示せ。$A^2 + B^2$ を転置すると \begin{align} (A^2 + B^2)^\top &= (A^2 + AB + BA + B^2 \minus AB \minus BA)^\top \\&= ((A + B)^2 \minus AB \minus BA)^\top \\&= ((A + B)^2)^\top \minus (AB)^\top \minus (BA)^\top \\&= ((A + B)^\top)^2 \minus (AB)^\top \minus (BA)^\top \\&= (A + B)^2 \minus AB \minus BA \\&= A^2 + B^2 \end{align} であるので $A^2 + B^2$ は対称行列である。
正方行列 $A$ に対し $A + A^\top$ は対称行列であることを示せ。
$A + A^\top$ を転置すると $$(A + A^\top)^\top = A^\top + (A^\top)^\top = A^\top + A = A + A^\top$$ なので $A + A^\top$ は対称行列である。
行列 $A$ に対し $AA^\top$ も $A^\top A$ も対称行列であることを示せ。
$AA^\top$ を転置すると $$(AA^\top)^\top = (A^\top)^\top A^\top = AA^\top$$ であるので $AA^\top$ は対称行列である。また $A^\top A$ を転置すると $$(A^\top A)^\top = A^\top (A^\top)^\top = A^\top A$$ であるので $A^\top A$ も対称行列である。
行列 $A$ に対し $AA^\top = A^\top A$ は一般に成り立つか?
一般には成り立たない。実際 $A = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix}}$ とすると $$AA^\top = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix}}\pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{matrix}} =\pbr{ \begin{matrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{matrix}} $$ $$A^\top A = \pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{matrix}}\pbr{ \begin{matrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{matrix}} =\pbr{ \begin{matrix} 0 & 0 \\ 0 & 1 \end{matrix}} $$ となり、一致しない。