集合を使って「自然数」を作る|ペアノの公理を満たすシステムの構成

2020/09/23

今日の目標

集合でペアノシステムを構成する。

ペアノの公理とは

mizuha
前回集合から写像を作ったので……
mizuha
今日は集合を使ってペアノの公理を満たすシステムを作るよ!
kureha
ペアノの公理って何だっけ
mizuha
自然数の概念を公理化したものだね
mizuha
次のようなシステムを構築できれば
そこから自然数の基本的な性質が引き出せる
定義

集合 $\NN$ とその要素 $0 \in \NN$ と写像 $s: \NN \rightarrow \NN$ の組 $(\NN, 0, s)$ で

(P1)
$s$ は単射
(P2)
$0 \not\in s[\NN]$
(P3)

$\NN$ の部分集合 $A$ が

$0 \in A$$s[A] \subseteq A$

を共に満たせば $A = \NN$

を満たすものをペアノシステムと呼ぶ。

kureha
$\NN$ が自然数全体の集合
$0$ は普通に $0$ で
$s(n)$ は $n+1$ に相当するものだっけか
mizuha
そうそう
mizuha
今日は(P1)~(P3)を満たすような $\NN, 0, s$ を作って
ペアノシステムを構成するよ

自然数全体の集合 $\NN$ を構成する方法

定義

集合 $X$ が帰納的とは2条件

空集合を持つ
$\varnothing \in X$
後者関数で閉じる
各 $n \in X$ に対し $n \cup \cbr{n} \in X$

を満たすことをいう。

kureha
こんな集合あるの?
mizuha
ZFC公理系の中に「無限公理」っていう公理があって
そこで帰納的な集合の存在が仮定される
kureha
この $n \cup \cbr{n}$ ってのは?
mizuha
$n$ の「次の集合」に相当する集合
mizuha
この後見ていくけど
「次の集合」をこう定めると
なにかと都合がいい
kureha
帰納的な集合ってのは $\varnothing$ を持ってて
$\varnothing$ の「次の集合」も持ってて
更にその「次の集合」も持ってて……
kureha
なるほど自然数っぽい
mizuha
ただ「帰納的」ってだけだと
全然関係ない集合も持ってるかもしれない
mizuha
集合 ★ を持ってて
★ の「次の集合」も持ってて
更にその「次の集合」も持ってて……
kureha
こんなイメージ?

mizuha
ということで
帰納的な集合の中で一番小さいものを
$\NN$ として定義したい
mizuha
帰納的な集合 $X$ を一つ取って
$X$ の部分集合で帰納的なもの全ての共通部分を
$\NN$ としたいところだけど……
kureha
$\NN$ が $X$ の取り方によって変わるのかどうかが気になる
定義

帰納的な集合 $X$ に対し、$X$ の部分集合で帰納的な集合すべての共通部分を $\NN_X$ とする。

命題1

帰納的な集合 $X, Y$ に対し $\NN_X = \NN_Y$ が成り立つ。

証明

対称性より $\NN_X \subseteq \NN_Y$ を示せば十分。$Y$ の部分集合で帰納的な集合 $A$ を任意に取って $$\NN_X \subseteq A$$ を示すことができれば、$\NN_Y$ の定義より $\NN_X \subseteq \NN_Y$ を帰結できる。

いま $A$ も $X$ も帰納的なので、$A \cap X$ も帰納的。この $A \cap X$ は $X$ の部分集合なので、$\NN_X$ の定義より $$\NN_X \subseteq A \cap X$$ であり、$A \cap X \subseteq A$ なので $\NN_X \subseteq A$ を得る。

mizuha
$\NN_X$ が $X$ の取り方に依らないことがわかった
定義

帰納的な集合 $X$ に対し $\NN = \NN_X$ とする。

$0$ の構成

定義

$0 \in \NN$ を $$0 = \varnothing$$ で定義する

kureha
でしょうね

後者関数 $s$ を構成する方法

定義

写像 $s: \NN \rightarrow \NN$ を $$s(n) = n \cup \cbr{n}$$ によって定義する。

kureha
$0 = \varnothing$
kureha
$s(0) = \cbr{\varnothing}$
kureha
$s(s(0)) = \cbr{\varnothing, \cbr{\varnothing}}$
kureha
$s(s(s(0))) = \cbr{\varnothing, \cbr{\varnothing}, \cbr{\varnothing, \cbr{\varnothing}}}$
mizuha
定義からすぐわかることとして……
命題2

各 $n \in \NN$ に対し $n \in s(n)$ であり $n \subseteq s(n)$ でもある。

$(\NN, 0, s)$ がペアノシステムであること

kureha
作った $\NN, 0, s$ が
(P1) ~ (P3) を満たすことを確認すればいいね
mizuha
まず (P2) をチェック
命題3

$0 \not\in s[\NN]$ である。

証明

$\varnothing \not\in \iset{s(n)}{n \in \NN}$ を示す。つまり任意の $n \in \NN$ に対し$$s(n) \neq \varnothing$$であることを示せばいいが、これは $n \in s(n)$ からわかる。

mizuha
次は (P3)
命題4

$\NN$ の部分集合 $A$ が

$0 \in A$$s[A] \subseteq A$

を共に満たせば $A = \NN$ である。

証明

仮定より $A$ は帰納的な集合なので $\NN = \NN_A$ である(命題1)。

$\NN_A$ の定義より $\NN_A \subseteq A$ だが仮定より $A \subseteq \NN$ なので $A = \NN$ である。

kureha
(P3) って結局のところ帰納法か
mizuha
(P1) を示す前に少し準備するね
命題5

各 $n, m \in \NN$ に対し $n \in m$ ならば $n \subseteq m$ である。

証明

命題4より、各 $n \in \NN$ に対し集合 $A_n$ を $$A_n = \iset{m \in \NN}{n \in m \implies n \subseteq m}$$ として $0 \in A_n$ と $s[A_n] \subseteq A_n$ を示せばいい。

$0 \in A_n$ であること

$\varnothing$ すなわち $0$ はいかなる集合も要素に持たないので $n \not\in 0$ である。従って

「$n \in 0 \implies n \subseteq 0$」

という命題は真であり、$0 \in A_n$ である。

$s[A_n] \subseteq A_n$ であること

$m \in A_n$ を任意に取り、$s(m) \in A_n$ であること、すなわち

$n \in s(m)$ ならば $n \subseteq s(m)$

が成り立つことを示す。 $n \in s(m)$ とする。$s(m) = m \cup \cbr{m}$ なので

$n \in m$ または $n = m$

である。

$n \in m$ のとき

$n \in m$ と $m \in A_n$ から $$n \subseteq m$$ がわかり、$m \subseteq s(m)$ なので $n \subseteq s(m)$ である。

$n = m$ のとき

$m \subseteq s(m)$ なので $n \subseteq s(m)$ を得る。

命題6

各 $n, m \in \NN$ に対し、$s(n) \subseteq s(m)$ ならば $n \subseteq m$ である。

証明

$n \in s(n)$ なので仮定より $n \in s(m)$ であり、$s(m) = m \cup \cbr{m}$ なので

$n \in m$ または $n = m$

である。前者なら命題5より $n \subseteq m$ であり、後者でも $n \subseteq m$ である。

mizuha
$s(n) = s(m)$ なら $n \subseteq m$ も $m \subseteq n$ も成り立つから
系7

$s$ は単射である。

mizuha
ということで……
定理8

$(\NN, 0, s)$ はペアノシステムである。

定義

$\NN$ の要素を自然数と呼ぶ。

kureha
自然数ってほんとに集合だけから作れるんだ
mizuha
無限公理が強力だったね